ここでは相続に関して、「民法」と「税法」の違いについてポイントをまとめます。まず図解(「見える化」)してみました。次に、以下の『法の基礎』を参考に『財産リスト』(相続の基礎【土台】)の作成を始めることになります。
※最も重要なのは先の「相続人とは?」で解説しました「遺言者(あなた)さまの意思」です。
どう「相続」(「人」へ「モノ」へ「想い」を乗せ承継)するか!
⇒法やルールは「手段」であり、
「目標」=遺(のこ)し継ぐべくは「人」との関係性=円満相続(承継)。
そして「手段」も常に改良・改善しながら良いものは遺し継いでいきます。それが次代を平和にします。
※『法の基礎』とは、「道義」や「人の感情」をも包含し「法律と法律、判例を含み条文と条文との関係性」を理解すること。その理解を現実の「人々の生活の場」における問題解決に適用すること、及びその適用されるもの。(「法の支配」社会において「全体調和」のための土台となるものです。)
この図は前ページ(「相続財産とは?」)に出典を記載しました国税庁ホームページ(No.4102 相続税がかかる場合:http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4102.htm)
「2.基礎控除額と正味の遺産額」の図表を加工して作成しました。
国税庁ホームページの図の上に、「民法上の相続財産」の図を重ねて表示しましたので、上図をご覧いただきまして「正味の遺産額」(<相続税法上の相続財産>)と比較してみて下さい。
・枠の幅は金額の大小を示したものではありませんので、ご注意ください。範囲の比較です。
「相続財産」に関わり、
●どう私人間の権利関係を調整するか?また、
どう家族・親族関係を律するか?という「民法上の課題」と
●どこに、どう相続税を(公平に)かけるか?という「税法上の課題」とを
明確に理解・峻別して考えることが重要です!
■民法と税法との違いについて:
基本的な「相違点」は「相続人とは?」の「ご留意事項!」で述べましたように、民法は【私的自治の原則】のもとに、優先すべきは当事者の話し合いであること。一方、税法(納税)に関しては【憲法第30条】にもあるとおり、国民は納税の義務を負い、「租税法律主義」(【憲法第84条】)のもと法律に拠る(法律に従わなければならない)ことにあります。
「相続財産の範囲」について上図に示しましたように、相違があります。それらも含み、大きな相違点をまとめ以下に【5つ】記載します。
【1】税法上では、「みなし相続財産」(死亡保険金、死亡退職金等)には課税する。
(《非課税》枠はあります。→500万円×法定相続人の人数です。)
※保険の契約形態によっては、相続税の対象外となります。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税の種類 |
親 |
親 |
子 | 相続税(非課税枠あり) |
子 | 親 | 子 | 所得税+住民税(一時所得) |
親 | 親 | 孫 | 相続税(非課税枠なし) |
子 | 親 | 孫 | 贈与税 |
・民法上では、これらは【原則】相続財産には含まれません。
(【原則】 相続人である受取人の固有の請求権だからです。したがって、「相続放棄」しても受け取ることができます。)
※【ちょっと参考】この法のギャップを活用する方法について:
「保険」は「相続対策」にいろんな場面で活用できます。遺留分の算定において原則は「持ち戻し」の対象とされません(例外もあります)。したがって、生前贈与に変えた「生命保険」を活用するというのも「遺留分対策」になり得ます。
その他、「納税資金対策」、「代償資金」・「葬儀費用」確保対策(当サイト「商品」内の例示処理でご紹介しています)等「生命保険」の活用方法は多岐に亘ります。
※お客様の個別・具体のご相談は、相続に詳しい税理士やファイナンシャルプランナー等にご相談されることをお奨め致します。
【2】税法上では、「暦年課税の贈与加算」は、「3年以内の贈与」のみです。
・民法では「生前贈与」の期間制限がありません。
・税法上、 「相続時精算課税制度」適用財産については、実際にその適用財産を適用受贈者が取得しない場合であっても、取得したものとみなされ、相続税の課税価格にそのすべてが算入されます。
・民法上、 「相続時精算課税制度」適用財産については、その「生前贈与財産」が「生計の資本」としての贈与などに該当すれば、遺産の前渡しとされ「遺留分」の算定の基礎財産となる被相続人の財産に加算します。(特別受益の持ち戻し民法第903条)。
ただし、協議により排除することも可能です。(遺言者が「持ち戻しの免除」をすることも可能ですし、相続人全員が合意すれば、「遺留分」を侵害した遺言書で遺産分割することも可能です。)
※本件【2】に関連し「税法に関する「配慮事項!」ご参照ください。
(「注意すべき」事項と「検討すべき」贈与税法上の<特例>、相続税法上の制度<税額控除>等を紹介しています。)
【3】税法上では、「生前贈与加算」の価格は、「贈与時の価格」です。
(上記【2】の「暦年課税の贈与財産」、「相続時精算課税制度適用の贈与財産」共に!)
・民法では、この「生前贈与」(特別受益)「もち戻し価格」は「相続発生時の価格」です。
【4】税法上では、民法でいう意味での「寄与」という規定はありません。
(あるのは公共への「寄与」という概念です。)
【サイト責任者 所感:そもそも「相続税」は「公共」を相続人とみたてたものともいえるかもしれません。】
・民法では、「相続人とは?」で紹介しました規定があります。(民法904条の2)
(被相続人の個人財産の形成(維持又は増加)への「寄与」という概念です。)
【5】相続人の数:
税法上で、以下の額を計算するに際し、相続人の中に養子がいるとき、実子がいる場合は1人、いない場合は2人までです。ただし、例外規定もあります。
詳しくは、出典:国税庁のホームページ(相続人の中に養子がいるとき:https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4170.htm)をご参照ください。
(1)相続税の基礎控除額
(2)生命保険金の非課税限度額
(3)死亡退職金の非課税限度額
(4)相続税の総額の計算
※養子の数以外にも、「相続放棄」があっても、なかったものとして相続人の数を計算します。
出典:国税庁のホームページ:http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4152.htm
・民法上、このような人数制限はありません。
■債務の承継(相続)について:
一切の権利義務が包括して承継されますので、相続人は、履行期が未到来の債務、条件が未成就の債務、未確定の債務であっても、基本的にはすべての債務を承継します。
また、被相続人が一定の債務を負担する内容の契約を締結していた場合は、その契約上の地位も承継しますので、相続人が債務を履行する義務を負います。
なお、金銭債務などの可分債務については、法律上当然に分割され、各相続人が法定相続分に応じて承継するとされます。これに対し、履行内容を数量的に分割できない不可分債務については、各相続人が不可分的に債務を承継し、各自が全部の履行責任を負うことになります。(民法430条)。
ここでは、債務の承継(相続)に関して、「相続の承認及び放棄」(民法915条~940条)と関連づけて、税法・民法の違い、特に留意すべき事項につき主なポイント6つ記載します。
【特に注意!!】
※遺言者様としましては、以下の規定等をご参考に、本件に詳しい税理士(或いは弁護士、弁護士法人)にご相談されることをお奨めします。
⇒特に、多額の債務であり「債権者或いは第三者」に対し、整理のための交渉が必要な場合、早目に弁護士又は弁護士法人にご相談ください。
※相続人様としまして、債務の存在が不明であり、単純承認することに迷われる場合には、同様に相続専門の特に債務調査を得意とする、行政書士、司法書士等に早めにご相談されることをお奨め致します。
【ご参考】
どこに債務があるかわからない場合、次のような方法で調査します。1)保管書類や郵便物を調べる。2)銀行預金通帳の記載を精査する。3)個人信用機関で信用情報の開示を受ける。
個人信用情報の開示を受けることができるのは原則として本人に限られます。したがって、相続人からの請求の場合には、被相続人の法定相続人であることが分かる戸籍謄本などが必要となります。
個人信用情報機関は銀行系、クレジットカード会社系、消費者金融系の3つがあるので、必要に応じて開示請求をおこないます。
詳しくは、債務調査を得意とする、行政書士、司法書士等にお問合せください。
(1)相続放棄等の「期間の伸長」に関して:
・税法上、故人の確定申告(準確定申告)の申告期限(原則、相続開始後4ヶ月以内)の「熟慮期間の伸長」はありません。(民法の「熟慮期間の伸長」の請求許可(民法915条①但書)を受けていても、税法上「伸長」はありません。)
・民法上、相続の放棄と限定承認は相続開始があったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続が必要(民法915条、924条)。財産の調査等のため「熟慮期間の伸長」を請求することができます。
※以下の3つの場合は単純承認したものとみなされます。(【法定単純承認】民法921条)。
債務を承継する可能性のある相続人は注意が必要です。
(包括受遺者も同様です。)
①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
②相続人がこの3ヶ月以内に限定承認または放棄をしなかったとき
③相続人が限定承認または放棄をした後でも、(イ)相続財産の全部又は一部を隠匿し、(ロ)私にこれを消費し、(ハ)または悪意でこれを財産目録中に記載しなかったとき
【注意】準確定申告について:遺産に含まれる被相続人の納税義務を確定させる行為であり、処分行為にあたるとして「単純承認」したものとみなされる可能性があるので注意が必要です。
(2)相続の限定承認:
・税法上(所得税法59条)、限定承認したときは、遺産(現金を除く)を時価で譲渡したものとみなされ、被相続人に取得費用等を差し引いたが譲渡益に課税されます。相続人は相続開始から4ヶ月(上記「準確定申告期間」)以内に現金で所得税の申告・納付しなければなりません。また、相続人は財産を時価で取得したこととなります(所得税法60条)。
※所得税法上の特例<住居用不動産譲渡の場合の3,000万円の特別控除※>や<軽減税率の特例>適用もありません。⇒【参考】国税庁ホームページ:https://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3302.htm
<軽減税率の特例>https://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3305.htm
・民法上は、遺産の範囲内で弁済すれば良いという制度(民法922条)があります。(相続人全員で家庭裁判所で手続することが必要です(民法923,924条)。すべての相続債権者に対して必要事項を公告、催告しなければならないなど(民法926~932条)、また責任規定(民法934条)等もあり、実際にはあまり利用されていません。)
(3)相続放棄について:
民法上、上記(1)のとおり、3ヶ月以内に手続が必要です。【原則】
家庭裁判所への相続放棄の申述(民法第938条)により、その相続に関しては、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法第939条)。
【注意1】 例外的に3か月経過後でも相続放棄ができる場合があります。(民法第915条①熟慮機関の起算点の【判例】)
【注意2】第一順位者が相続放棄をした場合、第二順位者が相続人になります。第二順位者が亡くなっている場合は第三順位者が相続人になります。よって相続債権者は第二順位の相続人、第二順位者が亡くなっていれば第三順位の相続人へ債権請求することが出来ます。
・相続人全員が相続放棄をし、相続人不存在となっても債権者に対する「詐害行為※」にはなりません。
(※この場合、被相続人の遺産は相続財産法人として精算されることになり、最終的に残余財産があれば、国庫に帰属します。(民法951条以下)⇒「相続人とは?」の「【参考】相続人がいない場合の法の規定」が適用されます。)
・「遺贈」の場合には、相続による取得ではないので、債務から逃れられません(「詐害行為」になります)。
・「みなし相続財産」(例:生命保険金)は、相続放棄をしても、民法上の相続財産ではないので、債権者は差し押えができません。
※「詐害行為」とは、債務者が債権者の権利を害する行為をすること、その行為が債権者を害することを知っていること【以上、債務者側の要件】、被保全債権(守られる権利)が金銭債権でああること、被保全債権が詐害行為の前に成立したこと【以上、債権者側の要件】のもと【原則】、その行為(「詐害行為」)を裁判所に取り消し請求できる、その行為を指します。【例外】(不動産の二重譲渡の場合等)もあります。
ここでは、被相続人の債務を逃れるために相続人全員が「相続放棄」をした場合、「詐害行為」にはならないということ、 一方、「遺贈」は「詐害行為」になるということのご理解でOKです。詳しくは、また実際のご相談は、本件に詳しい弁護士、弁護士法人にご相談ください。
【注意】『相続分の放棄』 (当事者間の「遺産分割協議」での合意)は債権者からの請求から逃れられません!
(4)連帯保証や連帯債務:
民法上、
・相続されます。 債権者は【原則】、どの法定相続人にも請求できます。
★ 金融機関等の債権者は相続人間の合意や遺言に拘束されません。
※「免責的債務承継契約」:
主たる債務者となった相続人がその後、事業に失敗したなどの理由で返済能力がなくなった場合、金融機関は他の相続人に請求をすることができます。そこで、このような不都合を解消させるために「免責的債務承継契約」を金融機関と締結すれば、このようなことはなくなります。
※ 「連帯保証」には特に注意! そのまま相続人に継承されます。「遺言書」作成の段階で、外してもらう交渉をしましょう。
※尚、相続税の課税価格の計算上、差し引くことができる債務は、被相続人が死亡したときに存在した債務であって確実と認められるものです。債務が確実であるかどうかは、その履行が確実に行われるかどうかです。
★その他(「保証債務」「根保証」等)個別具体に、資料を整理して、持参し専門家にご相談くださることをお奨めいたします。
(5)一身専属の権利義務:
民法上、
・【原則】相続されません(民法896条但書)。ただし、相続発生時に債務が確定している場合は、相続されます。(「損害賠償請求権」等)
※【死亡を終了事由とする権利】
・使用貸借のおける借主の地位(民法599条)、委任契約上の地位(民法653条)、組合員の地位(民法679条)
(6)一般通常のマイナスの財産:
民法上、当然に相続されます。
借金、買掛金、住宅ローン、未払い金(所得税、住民税、その他未払いの税金、家賃、地代、医療費、他)
■民法上、「相続財産になるか、ならないか?」:
最後に、引き続き、民法上(特有の解釈<判例>等もあり、多少細かいのですが)、「相続財産になるか、ならないか?」につき、留意すべき事項を整理します。
(相続財産とは、被相続人が亡くなったとき、保有していたプラスの財産とマイナスの財産のすべてを指しますが、相続財産のなかで不動産や預貯金は、相続財産であることが、誰もがすぐに解りますが、「これは?」と思われるものがあります。以下に整理します。)
1.借地権、借家権:相続の対象になります。
ただし、「公営住宅法」が適用される都営住宅につき、住居者の死亡に伴いその相続人は、当然には使用権を承継しないとする最高裁の判例があります。
尚、借地借家法では、相続人がいない場合に、内縁の配偶者や事実上の養子が亡くなった借家人の権利義務を引き継ぐことを認めています。【借地借家法36条】
2.交通事故で死亡した被害者の遺族の請求権:相続の対象になります。
治療費、入院費(付添費用、雑費)、休業損害、葬式費用、逸失利益、慰謝料等「財産的損害」「精神的損害」の賠償を加害者に請求できます。
3.祭祀財産:相続の対象になりません。(民法897条①)。
(税法上の「非課税とされるもの」(前ページ「相続財産とは?」国税庁ホームページご参照。ほぼ同一です。)
祭祀を営むための系譜や祭具、墳墓(墓地・墓石)などは、相続財産には属せず、先祖の祭祀を主宰すべきものが承継することになります。
民法では、被相続人が指定したときはその者が、指定がないときは慣習に従って、慣習が明らかでないときは「家庭裁判所」が定めるとされています。遺体・遺骨についても祭祀を承継するものに帰属するとされます。
4.葬儀費用:原則、相続の対象になりません。(税法と違います!※【参考】をご参照)
相続発生後に生じた債務であり、当該葬儀を自己の責任と計算において手配し挙行した葬儀主宰者が負担する(相続財産に含めない)のを相当とします。例外もあります。被相続人が相続人に対し、遺言等で儀式の方法や内容を定め、その費用を相続財産から支出することを求めていたり、相続人全員が葬儀の執行についておよそ合意していたような場合には、被相続人が負担すべき債務として、遺留分の算定にあたり、相続財産の評価額から、葬儀費用を相続債務として控除する(相続財産に含める)ことが相当である(東京地方裁判所平成16年11月12日判決)とされます。
※【参考】葬儀費用になるもの:(相続税法13条、基本通達13-4,5)
・死体の捜索又は死体や遺骨の運搬にかかった費用
・遺体や遺骨の搬送にかかった費用
・葬式や葬送などを行うときや、それ以前に火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用(仮葬式と本葬式を行ったときにはその両方にかかった費用が認められる)
・葬式などの前後に生じた費用で通常葬式などに欠かせない費用(お通夜の費用)
・葬式に当たり、寺に支払ったお布施、読経料、戒名料
<葬儀費用に含まれないもの>
・香典返しの費用
・位牌、仏壇、墓石、墓地の費用
・法事(初七日、四十九日)の費用
5.香典・弔慰金:相続の対象になりません。
儀式の主宰者(喪主)に贈られたものと解されます。(※香典返し等(上記)の費用は儀式の主宰者が負担します。)
■『財産リスト』の作成をスタートしましょう!
「相続人とは?」で<人>、「相続財産とは?」で<モノ>について、ご説明してまいりました。ここまでお読み頂きまして、感謝申し上げます。
以上のご理解に基づき『財産リスト』の作成をスタートします。
本サイトの次のテーマは「評価方法は?」ですが、先のページ< ■「今後の進め方」のポイント>でご案内いたしましたように、下記をお奨めいたします。
※オンラインショップでソフトをご購入いただいて、「評価方法は?」をお読みいただきながら、「財産リスト」への記入を「同時並行」にされることをお奨め致します。